治療紹介

2013.01.10更新

こんにちは。

さて、つい先日院長コラムでも取り上げさせて頂きましたが、

今回は「陰睾」のお話です。

コラムでも軽く触れましたが、当院での昨年一年間に発見した陰睾の子の数を改めて調べてみたところ

昨年4月から12月の間に出会ったワン子達(オス214頭)のうち21頭・・・

検出率は実に10%でした。

これは、はっきり言って異常事態です。

従来言われているワン子の陰睾発生率はおよそ1%程度ですから

10%の検出率がいかに異常なのかが判ります。


因みに

昨年のアニコムさん出典のどうぶつ白書によれば

皮膚炎などの皮膚疾患(24.4%)、

外耳炎などの耳の疾患(17.4%)、

下痢などの消化器系疾患(15.3%)

結膜炎などの眼の疾患(10.3%)と

陰睾単独で発生率上位の疾患と同程度の発生率という事になります。

しかもこれが、ある特定の犬種ではなく、チワワ・ダックス・プードル・シェルティなど・・

おおむね小型犬に限られそうではあるものの、多種多様な犬種でみられる現象である事を考えるに

当院近隣にそういった、陰睾の子も繁殖に使ってしまっている方が複数いるか

不妊処置を元々好まない方が多く住んでいて、

そこに発生した陰睾が満足な啓蒙を得られないまま根付いてしまったのか・・

原因は定かではありませんが、ともかくこの異常事態に対して

微力ながら力を尽くしていこうと思います。






さて、この写真のワン子。

サスケちゃんと言う、7歳のトイプードルさんですが

お母さんが「陰睾が心配」との事で手術をしていただける事になりました。

因みに、極度の内弁慶さんらしく、病院ではビビり屋さんです。


手術準備



麻酔をかけて、お腹の毛を刈ったところです。

白矢印の先あたり、ちょうど鼠径輪という、お腹と皮下を繋ぐ穴に精巣がひっかかっているんですが、

この段階で外から触っても全く判りませんでした。

ですが年齢が7歳と、やや高齢であることや、お腹の触診で気になる塊があった事などから

お腹の中で癌化が始まっている可能性がありました。

なのでこの子は開腹して、お腹の中を調べる事になりました。




赤線の部分を、数字の順番に切開しました。

1.まず最初に左側の、正常な睾丸を摘出します。
※正常な側は、この子本人の治療目的からすると摘出する必要はありませんが、
この病気が遺伝性である以上は万が一の繁殖を防止するためにも去勢すべきです。


2.(結果的に3の位置に見つかりましたが)体表に陰睾を認めないので、まずお腹を開けて確認する事になります。


◆開腹

お腹を開けているところです

右手でつまんでいるのは、反転させて外に出した膀胱で、その下(背中側)に精管が見えてます。

黄色で囲った部分を拡大してみると・・・



左右に伸びた精管が判ります(黒矢印)

陰睾がお腹の中にあると、この精管は外に向かわず、頭側(腎臓)へ伸びていくので、

この精管をソロソロと引っ張ると陰睾の精巣が出てきますが

この子の精管は正常に右側の鼠径輪に向かっていました。

チョンチョンと引っ張りながら、体表側からも改めて触診を進めて

ようやく赤数字3の位置の鼠径輪に精巣が引っかかっているのを突き止めました。


摘出



無影灯がまぶしくて判りにくいですが、引っかかっていた精巣を摘出するところです。

結局、サスケ君は1・2・3の3か所を全て切る事になりましたが、

無事に取り出す事ができたのと

術前は、年齢的なものと触診から、お腹の中で癌化している可能性があったので

これからの病理検査の結果次第ではありますが、

摘出してみて、肉眼的には癌化している可能性が低そうで一安心です。

もちろん、実際に病理検査の結果を見るまでは楽観はできませんが。


終わり


病理の検査結果が出次第、更新します。

投稿者: 博多北ハート動物病院

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